●家に思いを込める方法

●失敗事例から学ぶ失敗しない家造り

建築工事は人の手で作り上げるローテク産業です。うっかりミス・話しの行き違い・価値観の相違・手抜き等々、様々な原因で紛争が発生します。
安全な家造りは100%造り手サイドの責任です。安心出来る家造りはどうでしょう。依頼方法を考えれば建築主にも解決できる方法があります。

私に寄せられた相談メールの中から、最も多い住宅紛争の一例をご紹介します。          

● ケース1 違反建築は誰もがしていると云われた・・・・

■相談要約
住宅を新築購入されました。ある日行政から、条例違反してるとの指導を受けました。
調査の結果、複数個所に違反が認められるとの事で是正を強いられました。
建築業者にその旨を伝えたところ、違反は解っていたにもかかわらず大なり小なりみんなやってる事ですからみたいな感じで説明されたとの事です。
業者さんは「行政に対しては業者には免許があるので、違反については業者は関知していない事にして」と言われ、しかもその後半年以上ほったらかしで、行政からは期限付きの是正を約束をさせられてしまったそうです。
その事を業者に内容証明郵便にて、「故意に違反した事実を行政に打ち明けます」と手紙を送ったところ慌ててやり直しに来たそうです。 やり直しは完了したのですが、綺麗にして楽しんでいた家が、是正により、見るも無残な状態にされてしまったそうです。
行政に言われたそうですが、建築確認図面では違反部分は見当たらない言われ、建築確認の書類を見ると打ち合わせ時の図面と全く違うもので申請されていたとの事でした。

建築の世界って、こういった事が許されるのでしょうか?
やり直したら全てチャラになるもんなんでしょうか?
今更、行政に相談してもダメでしょうか?

と云う質問内容でした。

■ 私の回答
初めに、業者さんの大なり小なり違反はしているとの発言ですが、かなり時代錯誤しています。現在は摘発を受けた時の損害の大きさから、故意に違反するケースは殆ど見受けられません。
違反すると新聞沙汰になります。先日もマンションが容積率違反した事が、建築主の実名入りで報道されていました。20年前であれば業者さんの云う通り誰でもしていた事かもしれません。
業者さんの発言の意味するところは、「スピード違反は大阪市内を走っていれば10km/h程度は常識的に違反してるから、生真面目に制限速度を守るのはバカらしい」と言う思いに等しいかと思います。
しかし、10km/hでも捕まる時は捕まります。その時に違反していたのは自分だけではないと抗弁しても通用するでしょうか。 まして反則金程度では済まない社会的な制裁が科せられる建築の違反は、誰でもしてるからと云った単純な発想で違反してはいけないのです。
ここで質問者さんの立場をはっきりとさせる必要があるのですが、違反である事を何時認識されたのでしょうか?
工事の前から違反である事を聞かされていたのでしょうか?。
それとも摘発を受けるまで違反である事は知らされていなかったのでしょうか?。
後者であれば質問者さんも被害者です。
「業者は関知していなかった事にして」と言われても承知する必要もないのです。
相手にどの様な償いをして欲しいのかで今後の道が別れるかと思います。

■ 教訓
追伸で、行政に指摘を受けるまで違反建築であった事を全く知らされていなかったとの事でした。
業者の身勝手なセルフジャッジにより、夢のマイホームにキズが付いてしまった不幸な例です。
業者と建築主の間に客観的な評価を行う立場の人がいれば、この様な問題は発生しないのですが、この例には設計監理者の存在が見えて来ません。
工事を責任をもって監理する監理者がいれば、監理者が違反の法的訴追を受けますので起こるはずもないトラブルです。
         

● ケース2 うっかりミスによる施工不良

日頃の慣れから来るうっかりミスと、その後の処置の不手際によるトラブルです。
先日下記の様な相談が寄せられて来ました。

基礎立上りコンクリートにジャンカがあるのをお客さんが指摘したところ、施工不良の部分をモルタルにて簡単に補修されてしまいました。
このことに不信感を持ち、工事のストップを要求したそうです。2回ほど施工会社と協議しましたが部分補修しか考えてもらえませんでした。

不信感は続き生コン伝票の提出を求めたところ、図面には、JIS適合品を使用しコンクリートを打設することと記載されてましたが、JIS規格外の生コンクリートを使われていました。
これについては施工会社も契約違反を認めました。
基礎コンクリートは解体してもらえる事になったのですが、出来形請求として相当金額を請求されました。 
施工者が契約違反して施工した場合でも、建築主は施工者から出来た部分の工事代金の請求を受けることはあるか?
損害賠償としていくらくらい請求できるものか?

と云う質問でした。
追伸で

希望として、施工会社の違反な行為を世間に知ってもらいたいのが本望で、 年間170棟の住宅を建てている会社なそうなので、その会社の違反住宅を購入した人に知ってもらい無償で修復、やりかえを求めたいと考えておられるようです。
違反行為をした施工会社が施工した基礎をすべてJIS規格なのか。違反はしていなか調べ、違反した住宅は無償修復、やりかえを希望したいとの意向を示されました。
■ 私の回答

文面を拝読しておりまして、二通りの意図を汲み取る事ができました。
一つは、穏便に契約解除する方法と、もう一つは社会悪を追求する姿勢です。

穏便に契約を解除(出来高支払い無しにと言う意味です)する方法として、JIS規格品不採用を切り札にして、白紙解約に持ち込む事は可能かと思います。
相手も社会的信用は失いたくないでしょうし、社会問題にされたくないと言う心理も働くでしょうから白紙解約には応じると思います。
但し、損害賠償等は過去の事例から考えて請求しても棄却されるかと思います。

そして、社会悪に対して相手会社の姿勢を糾弾するとなればもう少し慎重な姿勢が必要かと思います。
こちらが事を大きく構えると、相手も弁護士を立てて応戦に出ます。個人で企業を相手に訴訟するには、余程の大きな被害(例えば人が死んだとか健康被害を受けたとか)を被ったか、社会的影響が著しい(横浜のマンション杭長詐称事件等)とかの事情が無ければ得策ではありません。
例えばJIS規格外のコンクリートであったのは契約違反にはなりますが、それだけで建築基準法違反にはならない為です。
建築基準法違反を証明するには、コア採取されて破壊検査を行い、設計図書で謳われている設計強度に達していない事を証明する必要があります。そうなると建築基準法違反(それも故意に)の疑いが掛かりますが、万が一設計強度に達しているのに、社会問題だと騒ぎ立てれば、相手に名誉棄損・信用棄損で訴えられかねません。

年間170件ほど建築されている会社との事ですが、その170件に対し自費でコア採取を行い破壊検査で強度を測定した結果、その殆どが設計強度に達していないとなれば社会問題になるでしょうが、現場調合の手練りコンクリートでもない限り設計強度に達していないと言う事態は無いかと思います。

目的を絞って、最大の効果が得られるにはどうすべきかをお考えになった方が宜しいかと思います。

■ 教訓

こちらの質問者さんは、施工ミスを見抜く目を持たれていましたが、一般の方では何事もなく見逃されていた可能性があります。
質問者さんの家だけ手を抜こうとしたのではなく、この会社はこの程度の仕事っぷりで年間170件ほど建てられていたのでしょう。
JIS規格に該当しなくても建築基準法違反にはなりませんし、ジャンカの対処法としてはモルタルで処理する事も場合によっては許される事もあります。
施工者のそう云った油断とおごりがトラブルを大きくさせたかと思います。

本来であれば監理する設計者に相談し、コア採取して破壊検査を行い強度に問題の無い事を確認し、ジャンカの処置法についても設計者に指示を仰いで、処置に問題の無い事を検討書にまとめ、建築主の了承を得て再施工に当たるべきです。

この現場にも設計者の存在が見えて来ません。設計者がしっかりと監理していれば、このトラブルは未然に防げた可能性があります。

● 管理と監理

建築には二種類の「カンリ」があります。
一つは施工者が行う施工管理です。もう一つは設計者が行う設計監理です。
言葉としてはよく似ていますが、課せられた使命は大きく異なります。
施工管理は設計図書により指定された建物を、決められた予算・決められた工期・決められた品質・で危険の無い様に管理する業務です。それらを「原価管理・工程管理・品質管理・安全管理」と云う言葉で表します。
設計監理は設計図書の通り工事が進んでいるか、法的に問題がないか、問題が発生した場合、建築主の代理者として施工者と交渉する使命を負います。
建築トラブルの多くは上記の例の様に設計監理者の不在により発生します。 設計監理者がいなければ、建築主は施工者と直接交渉しなければならず、状況の説明を受けても正しいか、誤魔かされているのか判断する事も出来ません。これがトラブルをより大きくし、最悪の場合訴訟事件となります。          

● セルフジャッジの危険性

ローコスト住宅によく見受けられるトラブルにセルフジャッジがあります。
予算が少ないので設計監理を依頼する費用がもったいないのは人情としてよくわかります。 しかし、工事費に余裕のない現場ほど設計監理者の存在は重要なのです。
ローコスト住宅の場合、設計費を削減する為、建築主さん自らが間取りを考えられる事があります。ネットを検索すれば無料間取りソフトがあったり、設計事務所のホームページで無料ラフプラン作成等々のサービスがあったりします。
設計事務所が無料でラフプランを作成するのは意味がありまして、ラフプランだけでは、プロが作成した間取りでも、施工出来ない事を熟知している為です。
それを知らずに、ラフプランのみで見積もりを発注したとします。施工者にしてみればラフプランは情報量が圧倒的に少ないですから、その多くを想定で見積もります。
当然ながら複数社に見積もりを取れば、見積もり金額にバラつきが出ます。 当然最も安い業者に工事をお願いする事になりますが、安いのには安いなりの理由があるのです。
たまたま良心的な施工者さんで、仕事の手が空いたから遊ぶよりましだから破格値の見積もりを出したとします。 建築主さんにしてみれば、元々根拠となるのがラフプランだけですから、何故安いのか判断出来ません。そこで手抜き工事をされては大変と、工事の一部始終を疑心暗鬼の目で見てしまうのです。
施工者にしてみれば、良心的な価格で請け負ったつもりなのに、たまったものではありません。もしかして建築主はクレーマーなのか?と疑い始めます。 疑心暗鬼の目で見ている建築主さんは、法的構造的に何の影響もないような些細なミスを手抜き工事だとセルフジャッジして、施工者さんに文句をつけます。
施工者さんの対応が段々と事務的になり木で鼻を括った様な返答しかしなくなります。 そういう事が何度か続いてしまうと建築主と施工者の信頼関係は簡単に壊れてしまい、最悪の場合訴訟に発展してしまうのです。 ローコスト住宅であればあるほど、設計監理者を置いて適正に工事が進む様に監理してもらう事が重要になるのです。          

● 実施設計図書の重要性

工事が始まっているので設計監理のみをお願いしたいと依頼される方がいます。
「実施設計図書はありますか?」と尋ねると曖昧な返事をされる方が多いです。
実施設計図書を簡単に説明しますと、意匠・構造・設備に渡り詳細な内容が記載された図面の事で、専門家が見れば、カタチになっていない建物でもその全容が全て分かってしまうほどの情報量が盛り込まれた図面の事です。
実施設計図書があるから、現場と図面の相違が判り、設計監理が可能になるのです。工事途中で変更工事が発生しても、原設計との違いが明白で差額見積もりも明快です。 しかし、監理のみ依頼をされる方の多くは実施設計図書を持っておらず、簡単な間取り図面か、建築確認申請に利用した平面図程度の図書しかありません。
これで、設計監理に入っても建築基準法に抵触しているかどうかの判断は出来ても、建築主の代理人としての設計監理業務はこなせません。 建築主から不審な点を指摘されても、判断するよりどころが建築基準法でしかない為です。
建築基準法は、人の生命を守るために定められた最低の基準です。建築基準法だけでは在来木造住宅に限って云えば、構造計算を行う義務も無いのです。
代理人として設計監理しようと思えば、建築主の希望や要望が盛り込まれた実施設計図書が必要になってくるのです。