●奈良・現代に蘇ったハイブリッドな数寄屋

         

土地探しからお付き合い願えないかとのお問合せメールを頂き、土地を数か所見て回りました。しかし、中々思うような土地が見つからず連絡も途絶えてしまいました。
一年ほどして理想に近い土地が見つかったので一度見て欲しいと連絡がありました。
現場に伺うと更地ではなく、古家ではあるのですが、それがまた、たいそう立派な数寄屋造りの家でした。
以前の持ち主は、この家に相当な思い入れを持っていた事が窺えます。
細部にまで建築の贅を尽くした建物です。
私自身この家に惚れ込んでしまい、この家を解体して新築するのではなく、なんとかこの家を活かす方向で、自分達の住みやすい様に改造しては如何でしょう、とご提案致しました。

数寄屋建築は現代風の住宅と違い飽きません。
流行とかに左右されないために古臭さを感じないのです。
流行を追いかけると、ブームが過ぎてしまえば、流行遅れのレッテルを張られてしまい、資産価値を落とします。
その点数寄屋建築は、古びるにつれて風合いと落ち着きを増していき、資産価値を高めます。
丁度東京や大阪の都心の商業施設が、流行を追いかけ目まぐるしく変貌していくのと対照的に、何百年もそのままの佇まいを留める京都や地方の城下町の風情の様です。

どうにかこの建物を残そうと、熱弁をふるったのですが、お施主様の表情がいまいち晴れません。話しを聞いていくうちに、室内に発生していた結露が気にしておられることが判りました。

シックハウスに敏感で、空気環境の良い家に住みたい。
地震が来ても大丈夫な家に住みたい。
その為には改築では限界があり、理想とする家にはならないとお考えのご様子でした。
仰る通り、数寄屋建築は家の耐久性を考慮して、夏は暑いなり、冬は寒いなりの佇まいで結露等を防いでいます。
冬の寒さに抵抗して、家の中で力任せにストーブを焚くと、窓ガラスばかりか壁面にも結露が浮き、カビが発生します。
また数寄屋建築は、開口部を横長に取るため現代の家と比較して壁量が北側に偏り、耐震性にも問題があります。
それらを考えると、古家を新築並みの性能にしようとすると新築以上の費用が掛かりそうです。仕方ない・・・新築で考えるか・・・

新築となれば、今の家にこだわる事はありませんので、機能性能重視で費用対効果に優れる洋風住宅をご提案しました。
洋風プランは、それはそれで納得されたのですが、機能や性能はそのままで、和風のプランを考えて欲しいとのご要望を頂きました。
最近は洋風住宅若しくは現代風の住宅が主流で、こちらからご提案しない限り和風住宅のリクエストは殆ど無いのですが、古家のリノベーションをご提案した時の数寄屋建築の飽きの来ない、年を経る毎に風合いが出てくる和風住宅にご興味を示されたご様子で、多少費用は掛かっても、飽きの来ない家をご要望されました。

耐震性に対しては、許容応力度計算を行い、より詳細な安全性を検証し、温熱性能に関しては、和風住宅特有の広い開口部を確保しつつ、温熱等級4を確保しています。
空気環境に関しましてもダクトで排気はするが、ダクトで供給はしない(ダクト内結露の発生を阻止する為)特別な第一種換気法を用い、シックハウス・花粉症・PM2.5に対処しました。
文化的には、飽きの来ない数寄屋建築の思想を踏襲し、技術的には最新の技術を先取りした家になりました。文化と技術の融合したハイブリッドな家造りに携われた事に感謝いたします。

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