●不利な敷地条件も間取り次第で快適な家になります。東大阪の北側リビングの家
土地の条件が悪く、ハウスメーカーの規格住宅の間取りでは、快適な生活を送る事は出来ないと悟ったお施主様がご間取りの相談に来られ、現地に様子を見に行くことにしました。
すると間口の広い敷地に南側道路で普通に考えれば好条件にも思える土地なのですが、眺望が全く良くありません。
道路の向かい側は高さ3mほどの工場の塀でその上も工場のスレートの外壁が視界を塞いでいます。東西は隣地で宅地ですから早晩家が建てられる事になるでしょう。
北側は寝屋川が流れており高さ3mほどの防潮堤が視界を塞いでいます。
当初はこの土地を分譲していたハウスメーカーが、自社の規格住宅を建てて売ろうとしていたそうですが、規格住宅で構成された間取りではこの敷地を活かす事が出来ません。
既製の間取りは、一階南側にリビングを置きますが、ここの敷地でその様なプランを当てはめると、リビングの窓からは道路向かいの工場の壁しか見えません。日差しは入るのですが眺望的には全く面白くありません。
それどころか、敷地と道路に高低差が無い為道を歩く人から、家の中が丸見えになります。
これは何かしないと・・・・・
全く異なる観点からもう一度敷地を見直しました。すると辛うじて北側の防潮堤の上の部分だけ視界が広がっています
。
寝屋川を挟んで向こう岸まで50mほどは視界を遮るものがありません。
二階の北側は遮るモノの無い大空と、寝屋川の水面を眺める事が出来ます。雲や水の流れの様な、ゆっくりと動くものを眺めるのは精神衛生上非常に良いと言われています。
もちろん川ですので将来的に建物が建つ心配もありません。
通常は都心の三階建ての住宅でしか、二階にリビングを配置する事はありませんが、気持ちの良いリビングにするには、都心とは言い難い場所でも二階にリビングを配置するしかありません。
しかも北側に・・・
そこでまず考えたのは、二階まで上がる苦痛を和らげる工夫です。通常は二階に個室を配置します。個室は場合は上り下りする回数がそう多くありません。しかしリビングとなると外部へのアクセスや来客応対と頻繁に外のとの関わりが多くなります。その度に階段を上り下りしなければなりません。
そこで玄関を中二階まで上げる事にしました。来客には中二階まで来てもらい、応対は中二階まで下りれば事が足ります。また外出時も中二階で靴を履いたり脱いだりする為、移動の連続性が途切れ、気持が楽になります。
上下移動の困難さは何とかなりそうですが、リビングを北側に配置して暗くならないか・・・・そこも検討しなければなりません。
本来北側窓は朝から夕方まであまり変化しない光量を得られる為、図書館の読書室とかは北向きに間取り配置されますが、リビングには日差しも取り込みたいと言う欲求が生まれます。
折角素晴らしい眺望を得られたのに、部屋が薄暗いと魅力が半減します。なんとかして日差しを取り込む間取りを考えねばなりません。
当たりまえに考えれば、南北に長いリビングにして南面までリビングを持って行けば日差しを確保出来ますが、北に開けた眺望を最大限確保する事が出来ません。また、南北に長いと、南側は明るく北側は薄暗い間取りになってしまいます。
そこで直接北側に日差しが取り込めるように、リビングの天井を勾配天井にして南側の屋根越しに光が入るようにしました。丁度道路側から見たら3階建ての家に見えます。
その3階部分の窓から二階の北側リビングまでダイレクトに日差しを送り込む事が出来て、北側リビングなのに明るくて眺望の良い間取りに仕上げる事が出来ました。
一階は家族の個室になっているのですが、リビングが快適すぎて寝る時以外は、家族全員がリビングで過ごすそうです。日曜日なんかは、テレビもつけずに、ただ流れゆく雲を眺めているだけなのに、全く飽きず心が安らぐそうです。
引きこもりが社会問題となり、折角広いリビングがあるのに奥さんだけが一人でいる家が当たり前の様になっている時代に、家族が集える求心力のあるリビングは、今後の住宅の在り方を考える上でも貴重な経験となりました。
間取り計画で最も重要なのは、既製の常識に囚われない勇気です。
住宅は大きな買い物ですからどうしても昔からある間取りを踏襲し勝ちです。
中には大正時代から続く「中廊下式」と呼ばれる間口の中央に玄関を配置し、その延長に廊下と階段を配置して左右に部屋を分散させる間取りを今でも、大手ハウスメーカーの間取り集等で見る事が出来ます。
応接間とか客間とか呼ばれる部屋が必要であった時代には、来客と家族を分ける存在として中廊下も必要であったのでしょうが、来客そのものが無い時代に中廊下は時代遅れの感が否めません。
今の間取りの、どの部分に不満を感じていて、どの様な機能が間取りに生かされれば快適と感じるかを考えていけば、自ずと自分の求める間取りが見えて来ます。
与えられた敷地を良く観察し、どの部分にどの部屋を配置すれば快適に暮らせるかを考え、他人が良いと考えているであろう間取りと比較して、少々的外れな間取りとなっても、自分が心地よいと感じる事が出来るなら、その間取りは正解なのです。
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